コラムVol.8:マスタリングの意義?意味?

以前に今までに頂きたコメントの中で皆さんにも役に立つかな〜というものものを抜粋しましたが、その中で真面目に返すと長文になりそうで、別のタイミングにでも〜と書いてたのがこちらのお話。

コメント主様

Q :他のマスタリングの解説動画や記事を読んでも、ミックス時の音源と大して変わらないのではと思ってしまいます。音源の質やイメージは、ミックスとマスタリングでそれぞれ何割くらい決まるのでしょうか?

ということで、今回はこれに触れてみます。

その他はこちらから!コラムVol.6:コメントに来た質問に回答してみる①

いつからかマスタリングって言葉が同音異義語になってますよね?

タイトルで書いてますが、すでにマスタリングって言葉が指す意味が大きく2つに分かれてしまってると感じてます。また、その意味が本人の立ち位置によって違ってしまうので、そこの整理というか自分がどの意味でマスタリングと言ってるが大事かもしれないです。

誰かと話していてこの「マスタリング」という言葉を使われた時には大体どっちの意味で言ってるかを確認する様にしてます。

こっから先は異論多論が多そうなのであくまでも筆者の見解ですのでご了承くださいませ。

①業務に於いてのマスタリング

業務のマスタリング(後述の内容と分けるために)って、今もあるけど昔はアルバムっていう1枚のCDにまとめることがメインというか、アコースティックな楽曲もバラードもリードシングルも激しめなのも同じ1枚に納める必要があって、それぞれを同じ音量感やレンジ感に揃える作業を意味していると思います。

本当だったらうるさい曲の方が音量も音圧もあるわけなんだけど、1枚の作品として違和感なく聞けていると思います。これこそがマスタリングの意味だと思います。

逆に視点でいくと、Youtubeや自分のサブスクのライブラリーをシャッフル再生すると、アーティストやアルバム、曲によって音量が違ったりして、細かく音量に手が伸びたりすると思います。結構めんどくさいですよね。時代も変わればジャンルも変わるし、同じジャンルでもこの曲小さいな〜ってを体感していると思います。

これはそのマスタリングの処理が別の作品なので違うためにこの細かい雲めんどくさい処理が必要になってきます。それだけならまだしも、最近(結構前からだけど、)のiTuneストアとかはある基準を基に上限にあたる作品は音量が強制的に下げられます。

つまり、自己満的に音量をあげても他の作品と一緒に並べられるタイミングで音量がしっかり下げられて逆に一番しょぼい作品になってしまったりもします。この辺はかなりざっくり書きますが、これも10年以上前からある音圧戦争の成れの果てで、ここ数年は放送にも絡んでくるラウドネスという値があらたな基準に追加されています。

この基準に納めながらも楽曲の魅力を最大限に拡張する作業を本来の意味でのマスタリングと捉えています。この作業を確実にこなしながら、自分の色を出してくるので、マスタリングエンジニアが職人と表現されることが多いのかもしれません。元のデータが誰でも一定の特徴とクォリティが保たれてるのですごい世界です。

ちょっとだけ脱線すると、こういった最近聞かれ方って少し残念なことでもあって、作ってる側としては大袈裟にいえばコース料理の様に流れを考えてます。ライブの曲順を考えるとの一緒なので、できればアルバムは曲順とおりに聞いてくれた方がうれしかったりします。まあ、好きに聞けばいいんだけど、SEからの繋がりだったり、歌詞として時系列があったりね〜。一つのアーティストにプロデュースとして関わると、そんなことも考えて作ってたりしてます。

後ね、実はアップロードするだけでそれなりに音というかバランス変わっちゃうんだよね。流石にもう慣れましたけど、この違和感がまだ少ないのがSpotifyかな〜って感じですね。いろんな裏技を使えばTIDALという音質に振り切ってるサブスクも使えるので気になる方はチェックしてみてください。日本未対応のサービスなので基本的には洋楽しかないですが、最新の楽曲や音像を体感できるのかなりおすすめです。

TAIDAL https://tidal.com/

②ミックスの流れの中でのマスタリング

で、本題に戻ります。

最近はこっちの意味で言われてるような気がします。ざっくりいうと音圧稼いだり2mixにEQかけたりとか、M/Sがなんだとかの、DAWっ子等がマスタートラックでやってる作業自体がマスタリングともいわれてるのかなと。

なので、それは僕の中ではミックスです(笑)

「マスタートラックにOzone挿して、お任せです!」的なのね。以前にも書きましたが、このマスタートラックとかステレオでなんとかしようとするミックスの方法は本当にやめた方がいいと思います。

業務でやってる人が聞いたら一瞬で素人騙し的な作業だなってわかってしまい、そんな感じの人にリピートすることはないです。そこまで予算がない世界でもちゃんとバラから整えてくれるエンジニアさんはいっぱいいるので探してみてください。

業務との大きな違いはマスタリングに出す時はマスタートラックのエフェクトを掛けた資料用とバイパスしたものを2種類送ります。ミックス作業時の本人の仮ミックスを聞くのと一緒ですかね。

ここは餅は餅屋って言葉がある通り、ミックスとは違う視点での作業になるので、業務に於いては信頼出来る人を見つけてその人と何回も作業をやって、お互いの理解度をあげるしかないですね。最初に何箇所かに同じ曲を同じような説明で依頼して、好みに合うところを探すしかないというか。お仕事の人はちょっとだけお金かかるけど、大事な作業なので早めに見つけとくといいかもしれません。

先方からもこうした方がこうできる的な会話を積重ねることが大事です。俺はずっと同じとこに出してるので、これくらいのバランスで送ればこうなるとわかってるので、それで出してます。

雑なまとめ方をすると、配信やプレスする為の決まり事を四角い枠、曲を◯として、枠に入れた◯以外の隙間をきっちり埋める作業が本当の意味のマスタリングだと思っています。

◯が枠より大きいならそもそもレベルがおかしく、◯の形が歪ならミックスが上手くないってっことでもあります。◯が大きい場合は、丸を小さくするところから始まるのでちょっとだけ鮮度が落ちます。デジタルの世界でも処理の回数は少ないに限ります。

先ほどの職人と言われるマスタリングエンジニアさんは、この隙間の埋め方で全然違うんだよね〜。エンジニアの好みバージョン、流行りに合わせたバージョン、ちょっと攻めたバージョン、ちょっと抑えたバージョンなどなど、いろいろな選択肢をくれる人が本当の意味でのプロで尊敬してます。

なので、最初のコメントに回答するならMIXとマスタリングの比重は8/2でしょうか?

ただその2割は経験から予想がつく2割だったり、予想を上回ってくる2割だったりしてます。個人的にはいくら音量上げてもうるさくならないってが何よりも欲しい感じです。

まとめ

最近は一人で最後までやる人の方が多いと思います。その場合はミックスとマスタリングで人格を切り替えるというか、ミックスを一旦バウンスして、そのステレオファイルだけのセッションで進めるくらいに切り分けた方がいい結果になると思います。なので、基本ミックスの流れの中でのマスタリングってのはおすすめではないです。

その理由の一つがこのブログで何回も出てくる「レベルの管理」が身に付くからです。

マスタートラックに何かインサートしないとバウンス時にクリップしてしまうなら、そこまでレベル管理が上手くいってないです。少し前にこの辺をまとめた以下の記事を読んでもらえると、改善の糸口が見えると思います。

自力でOZONEを越え!プロ並みの音圧を稼ぐための下処理の話 ①〜②

で、他の曲にくらべてステレオの処理ではどうにもならないな、、、、っていうファイルはミックスに戻って問題点を修正するしかないです。

最初は面倒くさいこの作業も自分の中にマスタリングに移る前にあるべきバランスのミックスのゴールの基準ができてきて、スピードがどんどん速くなります。プロのマスタリングエンジニアが1日何曲も作業ができるのはこの経験値がとんでもないんですよね。聴いた瞬間というか聴きながら、やるべきことがわかってどんどん作業してる感じです。

K-popとかの日本語版と英語版(本国版)の違いを聞くと同じ曲なので、差がわかりやすいです。ミックスも違うのでマスタリングだけの差じゃないけど、同じ素材でこうも差が出るのねってね。それだけは言われないように日々頑張ってたりもします。日本のPAの現場で、洋楽ばっか流れてるのはそういうとこも原因だったりもしてるのかなと。

海外の音が好きなクライアントに頼まれ、俺もそれが好きで作ってるのに「平成かよ、、、」みたいな低音スカスカの歌中心の音にされることが過去に多々ありまして、もう決まった何人かにしか選択肢に入ってなかったりもします。

まれにクライアント側でマスタリングに出す場合、リリースされるまで結果を知らなくて、リリースされてびっくりみたいなのが業界あるあるの一つです。

時には「ミックスとかマスタリングでここまで変わるなら、行けるとこまで行きたくなったので後からいろいろアイディアを出しました!」と、ミックスやアレンジまで遡ることもあってかなりしんどいこともありますが、こういう素敵な感想がギャラより嬉しかったりもします。

エンジニアなんて何も偉くないので、クライアントが納得いくまでつきあうのが長続きの秘訣かもしれません。



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いつの間にやら業界歴20年越えのクリエイターが表じゃ書けないDAW関連レビューやMixテクニックなど書いていきます。 キャリアの中で身につけた経験を元に誰でも独学でプロレベルでミックスやアレンジができる様になれるよ!って記事を心がけてます。 最初は友人のバンドのお手伝いで始めたレコーディングから、アレンジ力が評価されプロデューサーという仕事に到達。その後、様々なバンドやシンガーさんの作曲からレコーディング、ミックスまでをまとめてうける用になって早20年近く。激しめのバンドものからR&B、HipHopを幅広く受けてます。 以前はアウトボードマニアでしたが、いつの間にやらIn The Boxの極みを目指してます。つまり「ミックスに関してはプラグインでもいけるよ」ってのが最近のテーマです。