実際のMixの流れ編 Vol.9:ボーカル編① いろんなそもそも論

リズム、ベースときて、ギターかと思いきやボーカル編開始

以前「プロでも使えるMIXテクニック 実際のMixの流れ編 Vol.2:データのインポート後の基本とトラックレベルの間違った理解をやめよう」にて書いたトラックのレベルの積み方の通り、この3つでオケのバランスが出来てないとそのミックスは絶対に上手く行かないです。

インストを除いて大体の曲がボーカルが主軸なのに先にギターとかの上物に手をつけるとオケが強すぎて歌がはまる隙間がないし、歌が聞こえるところまで上げる前に大体どこかしらがレベルオーバーになって、結局他のトラックをいろいろ触らなきゃいけなくなり大幅に時間の無駄です。レベル調整を何度も行き来してる人は今回のそもそも論が出来てないかも知れません。

自宅作業が主流の今だからこそ、いろいろ気をつけた方がいいです。

経験上「自分(たち)だけで録りました!」ってデータが、一緒にレコーディングしたデータより良かったことはほぼないです(ちなみに音質じゃなくてテイクの話ね)。

どこかしらのレーコディングスタジオで録音したとしても、ボーカルのバックグラウンドに合わせるより、そのスタジオの定番セットが準備されるだけで「その人の本質に合わせてくれなかったんだろうな」って感じることも少なくはありません。

ここで言いたいことは、ボーカルの声質、過去の曲、仕上がりのニーズ等は録る前にちゃんと調べて、録る側もしっかりと準備をしようよってことです。誰々みたいにしたいってイメージが本人にあるのに、それがわからないって言われたら残念よね。

初めてのレーコディングでも自分の事を知ってくれてた方が嬉しいし楽しいでしょ?心のガードが少し下がるというか。お互いの意見も素直に聞けるし、新しいアイデアだって出やすい。

つまり、レーコディングの基本は機材や環境よりも「いかにその人の魅力を引き出してそれをそのまま録りきる」に尽きると思ってる。ここが分かって無い人が200万くらい掛けて機材で録ったデータだったとしても、インターフェースのマイクプリと10万以下のマイクでも負ける気がしないです。それくらい、快適な時間を過ごして最大限に引き出す努力をしてる自負でもあります。

それって、マイクが近すぎだしゲインも高すぎかも。

まず自炊作業からくる素材の音を聞いて言えるのが「マイクとの距離が近すぎる」ってことと「音がデカイな」って感じることが多いです。

これはアコギの録音とかでも多いんだけど、マイクが近いと拾える音にレベル差が付きやすいから粗が目立ってプレイヤー側がしんどいと思う。少し離した方が空気コンプ(今名付けました)がかかるので、バランスがよくなります。

普段はできるのにレコーディングになると、ダメテイクが増える理由の半分はエンジニアの技量のせいだったりもします。エンジニアサイドの責任でよくあるのはモニターバックです。実はこれがすごく難しい。声とオケとクリックが送られてればいいみたいな適当な返ししてる人結構多いでしょ?

それって、その環境で自分で歌ってレコーディングしてみればいかに不親切だったかわかるので是非体感してみてください。そしたら、その次のタイミングからにいろんな事に気を使ってプレイヤーに優しいモニターを返せる様になると思います。モニター用のコンプも然り、返すオケの中で耳を引っ張ってピッチ取りずらい音は送らないとか、歌ってると所を見られたくない人、素足になりたい人(笑)いろいろストレスをとってあげるってのがかなり大事だと経験を重ねるほど感じます。

余談が多くなりましたが、まとめに入るとトラックの波形が極端に大きくなったり小さくなったり、マイクから離れたのが分かる様な距離で録ってると既にダメミックスの始まりです。

マイクの距離が変わると録りたい音と環境の音のバランスが変わるので、コンプでどうこうの音量の話じゃなくなります。吸音がある程度されている部屋なら、いつもよりもうコブシ1個分離れてプリのゲインを上げよう。吸音があまい部屋なら、自分やマイクの後ろや近くに毛布を置くなどして、すこしでもアンビ感(反射音)を減らそう。こんな感じだけでも、テイクの音のムラが減るから、声に感情をつける方に集中できると思います。

「取り返しのつかない要素」って話。その①

「後でプラグインのコンプで整えます」

これ結構耳にしますがかなり間違ってるかなと思ってます。

人間はかなり敏感なので、リアルタイムで耳にしてる音に合わせて無意識に調整してます。例えばギタリストの宅録の場合、プラグインのアンシミュとかかけて弾くことが多いと思いますが、やはりちょっとレーテンシーがあるので、それなり歴のギタリストは無意識に少し早めに弾いてしまっています。なので、録音されたデータが走ってたりしちゃうんですよね。普段ソフトでしか弾いてない人が生アンプだとうまく弾けないのはこの脳内補正が走ってるので、アンプからの出音が早過ぎて、慣れるまでなかなかかかります。そこが生アンプ派の人の無意識な感想なのかもしれません。自分自身がギタリスト出身なのでギターで例えましたが、ボーカルはより肉体に直結してるので、ニュアンスのずれはもっと敏感に感じます。これも文中に出てきたストレスの一つです。このレーテンシーとの戦いもエンジニアの腕の見せ所です。

ここに気づいてないと、録るときには不利なレーテンシー環境のモニターリングで、録音された音をチェックするときはそのレーテンシーがない状態でチェックって、なかなかプレイヤーは気の毒ですね(苦笑)

マイク(コンデンサー)とマイクプリは手持ちのもので良いから、掛け録り出来るハードウェアのコンプは可能な限り用意した方が絶対に良いと思います。これは大きい音を下げるよりは、小さい音を持ち上げてちゃんと拾う為だから特に色付けを求めなくいいです。極端に言えば最近のDSP乗ってる系ApolloシリーズとかRMEとかのインターフェースに付いてるのでもないよりはマシです。

なぜかというと、レーテンシーがないって点以外に、小さく入った音(=抜けが悪く何を言ってるか分からないとか、滑舌がゆるいとか)はクリップした音と同レベルで後からどうにもならないんですよね。後から出来ることは、その小さい音のまま音量が上げることだけだから、傷が広がるだけです。

録り直しが出来ない状態なら他のテイクから持ってくるしかないけど、そう簡単には上手く繋がらないよね。時間掛かるし。保険の為にも、レーコディングの際のボツテイクとかは取り敢えず全部部品取りにとっておくことをお薦めします。本当にどうしようもない時に助けてくれることがあるし、ダブルの材料にしたりもできるしね。

「取り返しのつかない要素」って話。その②

次にあるのが「レコーディングは切り貼りで直せる」っていう昔からあるやつ。

まあ。結構直せるよ。

でも、食べ物でいう鮮度っていうか熱意やテンション感ってのがどんどん失われて行くんですよね。せめて納得行くまでワンコーラス(もしくは、ワンバース)は丸々は録ろう。言葉単位での作業は空気感も繋がらないし。それで良いっていうボーカルさんは何がしたいんだろうってすら思う次第です。ギターとかだとリバーブ感やノイズとかが繋がらないし、ドラムだとその前のフレーズでなってる共鳴が繋がらないかったりしてて、それが本当に嫌なんですよね(苦笑)自分が関わるなら拘りきりたいとこです。



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akeru
いつの間にやら業界歴20年越えのクリエイターが表じゃ書けないDAW関連レビューやMixテクニックなど書いていきます。 キャリアの中で身につけた経験を元に誰でも独学でプロレベルでミックスやアレンジができる様になれるよ!って記事を心がけてます。 最初は友人のバンドのお手伝いで始めたレコーディングから、アレンジ力が評価されプロデューサーという仕事に到達。その後、様々なバンドやシンガーさんの作曲からレコーディング、ミックスまでをまとめてうける用になって早20年近く。激しめのバンドものからR&B、HipHopを幅広く受けてます。 以前はアウトボードマニアでしたが、いつの間にやらIn The Boxの極みを目指してます。つまり「ミックスに関してはプラグインでもいけるよ」ってのが最近のテーマです。