倍音を増やせば良いってもんでもなく、整理してこそなんぼです。
いろんなプラグインをなんとなく使ってた人が必要に合わせて自分でコントロールできる様になるEQシリーズの⑤です。
前回、倍音を増やして存在感をだす「倍音のメリット」の方にフォーカスしましたが、実はこの倍音こそがボーカルなどを埋もれさせてしまう原因だったりします。
倍音って、二次倍音、三次倍音、、、としばらく続きますが、普通にオクターブ上の二次倍音や四次倍音ならともかく、三次倍音は「1オクターブ上の5度」、五次倍音は「2オクターブ上の長3度」、七次倍音に至っては「2オクターブ上の増6度」など、、、、元の音程とはちがう音階の音が鳴ってます。オルガンのドローバーの様なイメージです。
単音ならまだしも、コードなどの和音はそれぞれの音にこの倍音が関わってくる訳で、さらに複数のトラックが同様にあり、、、、
つまり大体の楽器の基音の上限である1khz以上(細かく言えば違います)=Voの美味しい帯域は実はとんでも無い大渋滞になってるのがわかってきたと思います。
これがサビとかで音数が増えると歌が一気に埋もれてしまうの現象の正体だったりします。
この細かい処理を各トラックで行っていくと、Voの為のステージがどんどんと開けていき、サビのボーカルが正にサビのように一気に抜けて来ます。デジタル系のソフトシンセは音自体が変わっちゃうので、基本的に上物の生楽器(特にギターとか)を先に手をつけていってください。
この倍音を整理してこそプロがMIXした様に聞こえる大きなポイントです!ここを自分の自分なりに思い通りに出来るようになれば「EQの基本」は極めたと言っちゃいましょう。
基本は変わらずグリグリ方式です。細いQでブーストし、あからさまに他のトラックの音の邪魔になるポイントをカット→次の邪魔を探すの繰り返し。だいだい邪魔なポイントは、極端にブーストすると「コモコモ?」「モアモア?」「モホモホ?」そんな感じの音になるので体感してみてください。高域だと「キュヒ〜」とかなるところがちょっと邪魔になりやすいポイントです。
この手のマイナス処理系はFabfilterのPro-Q3の出番ですね。最近はKirchhoff EQってのも使ってみてます。
ここで一番気をつけなければい行けないのが潔癖症です。我々真面目な日本人はどうしても神経質になりやすいです。やりすぎる=倍音をけずるってことなので、前回の倍音が持つ音楽的な要素を捨てていくことにもなるわけです。
じゃあどうやって以下の2つを両立させるか今回のテーマです。
- 倍音を整理して分離感を上げる
- 場所(イントロとか平歌とか)によっては細く聴こえてしまうのは避けたい。
答えは簡単で「時間軸」を意識していきます。
時間軸ってどういうこと?
- オートメーションで邪魔な瞬間だけを狙って処理をする!
- ディエッサーや、ダイナミクスEQ、サイドチェインなどを使う。
何よりも①が大事で、②はその為の時短&便利アイテムです。
オートメーションで邪魔な瞬間だけを狙って処理をする!
音楽って全ての楽器がずっと一定の音を同じ長さだけだしてる訳ではないですよね?
例えば、Aメロではアルペジオを弾いていたアコギのトラックが、Bメロのタイミングからコードストロークに変わり、なんか歌が聞こえづらくなったと言った場合。
このトラックのBメロに合わせたEQの処理(特にこの整理系の処理)をした場合、元々特に邪魔ではなかったAメロのフレーズにも影響がでます。なんかアルペジオの音が細くなって埋もれてしまったりします。で、別のプラグインを追加しても結果はぐしゃぐしゃに、、、、
このパターンにハマってる人意外と多くないでしょうか?ギターだけではなく、全てのトラックに共通する内容だと思います。
じゃあ、どうすればいいかというと、Bメロのタイミング用のEQなりをインサートし、その瞬間だけEQのオン/オフをコントロールすれば、EQ処理の必要がないAメロに影響が出ない様にすることができます。
ここで活躍するのがオートメーションです!どんなDAWでもついてる機能なので是非実践してみてください。ボリュームのオートメーションは書くって人は多いと思いますが、プラグインも同じくらい重要です。
まあ、この処理に関してはそもそも問題のある部分のみ別のトラックに分けてしまう方が簡単ってこともあるので、臨機応変に。コンセプトを理解してもらうためにあえてオートメーションを先に書いた次第です。
ミックスの半分はオートメーションで出来ています!
プラグインをいじったり交換したりと、音決め作業ばかりずっとやってたりしませんか?もしくはプラグインで整理しただけでミックスが終わってませんか?
前述の様にどこかしらで決めた音も次のバースでは合わないかも知れないので、オートメーションに時間を割くわけです。音の整理の後からが本番ってのがお仕事のミックスです。
僕のミックスの作業時間の半分近くは音量等調整はもちろん、こういったオートメーションに費やしてます。音決め6割、オートメーションで展開を作るのが4割くらいです。(詳しくはこちら「実際のMixの流れ編 Vol.15: 意味のあるオートメーションを」)
ここは仲が良く名前が通ってるプロのエンジニアさん共通の感じがします。
リバーブの種類で展開作ったりとか、音量のオートメーションで各バースの音たちを演出してます。僕の場合はどんな曲も頭の中で勝手にPV(今はMV?)を想像して、映像というかストーリーを意識するようにしてます。本人たちも感情の流れやLiveの動きとか色々考えて曲を書いてるはずなので、そこに敏感でいたいですね。
必要ない処理はしないのが音やせ回避に効果抜群です。
数学ではなく音楽なので、濁った部分も大事な要素だったりします。ドラムなどはあの濁った部分がないと太さが出ません。サラサラの濃厚味噌ラーメンってのなんか違いますよね?
まあ、好みの問題ですが、味=楽器にはそれに必要な粘りや濁りが必要って言いたい感じでした(笑)
個人の見解ですが、すべてのトラックが頭っから同じ設定で言い訳がないと思っています。これはかなり手抜きであって、EQやコンプレッサーは必要な時にかける(コンプの場合は必要な時にのみかかる設定)のが正解で、要らない時は「素」のほうが正解です。
ミックスだけの作業をすると批判家になりやすいのですが、制作側がとことん頑張った結果をもらってるので、可能な限りその意図を組んで挙げないといけない。
これを実践するのは言葉にするよりかなり難しく大変です。こういうのが嫌な人は自分はプロだって偉ぶるのはやめましょう。制作においてめんどくさいって言葉を出す人は、仕事にしなくたって音楽は楽しめます。基本全部の作業にかなりの手間がかかる訳で、そこに楽しさを見出せないとリスナーには届かないです。
録り音が悪いとか、演奏が下手だとか、自分の環境が良くないとか、何かのせいにするのは簡単だけどね、そこの先に行かないと好きなことでお金を稼ぎ続けれないのよ〜。
はい、偉そうに見えたらすいません。みんなとそんなにかわらないことでけっこう悩むよってことが言いたいのです。
上手いEQと下手のEQは差は未処理より大きいです。
文頭に倍音の位置のことを書いたとおり、そのうちそのコードやスケールから外れた音が聴こえてくるから、その倍音等の飽和状態を見事に整理するのが音が良い言われるプロの人のEQかなと。
エンジニアとプロデューサーに一番必要な才能は、自分の知識と経験を持っていかに相手の才能を引き出すかだと思うんですね。曲を書いたからって全部決めたがるタイプや偉そうに相手を緊張させるタイプ、そもそも知識や技術のレベルが低いけど仕事になってる運が良いタイプとかとは何回も仕事したくないでしょ?
一番目立たせたい事(重要なこと)を意識して、それ以外を整えていくと勝手に主役が目立ちます。音も裏方もそれでいいのよ。
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