まずは原因を把握してみよう!必要のない低音を把握する
いろんなプラグインをなんとなく使ってた人が必要に合わせて自分でコントロールできる様になるEQシリーズの②です。
実は「即戦力のEQテクニック①:カリカリミックスへの落とし穴!潔癖症的EQ癖はやめよう。」の最後の方に書いた各トラックの音量を-12db ~ -8dbに収めるには中々難しかったりします。
だいたいの原因は「不要な低音」です。オケの中では一切聞こえてないのに確実に存在し、マスタートラックのメーターをガンガン埋めていきます。
その結果、思うように音量のコントロールができなくなり、リミッターやコンプレッサーでどうにか試行錯誤してると思いますが、これが間違いのスタートです。決め台詞の様になってきましたね(笑)
低音というのはもの凄いパワーがあるので適切にトリートメントしていく下処理はだいぶ効きます。仮に全てのトラックに20~30hz以下を全ての切るハイパスを入れたら、音の印象ははそんなに変わらないのにメーターは下がっているはずです。
一瞬脱線しますが、昨今の流行りなのか(なんかで見て言ってるだけじゃない?的な)30hz近辺の優位性的な話もありますが、それより下を綺麗に処理し、そのトラックのダイナミクスもコントロールできてての30hzなので勘違いしない方がいいです。トラップやヒップホップも手がけるので理解はしてます。
さて、このハイパスEQは「この作業専用」にし、通常の音を整理するEQと分けて管理をしてみてください。インサートの上から2番めのスロットにでも統一しておくと確認しやすいと思います。チャンネルストリップ系のプラグインはその中にあることも多いので、そちらでも同様です
☆同じカテゴリー(同じ目的)のプラグインは同じインサートの列にある方が後々把握しやすいです。
例えば、ハイパスEQ→コンプ→EQ(→EQ2→、、、)など、一番上を開けるのは、後で何かしら追加したくなったときに開けておきます。この方がどうしてもトラックの収まりが悪いときに一番最初にTAPE系を挿してみたりと実験をするときにインサートをずらす手間が省けます。
さて、筆者の見解としてはかなりの紆余曲折を経て、EQの根本はマイナス方向だと思ってます。
「いやプラス方向でしょう!」って人も多いと思いますし、以前の僕自身もそうでしたがブースト方向ってレベルの管理が難しいのと、音の変化が大きいんですよね。
なお、このEQにおけるレベルの管理に関しては「即戦力のEQテクニック⑦ブースト&カットのその先の話」にてまとめてありますので、こちらもチェックしてみてください。
元音が悪すぎてを整形するくらいのときはブーストもよく使いますが、基本余計な帯域を削っていくと目立ってほしいところにだけエネルギーが残るのでブーストもと同じような結果になります。正直ここまで行くのに10年くらいかかったかも知れないです(笑)
実際に使ってる整理系EQプラグインの一例
個人的によく使うEQとして、以下のものがあります。
- Fabfilter Pro-Q3:個人的プラグインEQの覇者です。使い勝手も音もしっくりきてます。バージョン上がるごとに付く機能はちょっとどうでもよくて、Q2の時点で整理系としては完璧ですね。ポイントが何個でも作れるのとQも含めて片手だけで済むのもポイントですね。これで出来ないというかやらないことはダイナミックEQの出番ですね。(名前はEQだけどコンプの類いだと思うのは俺だけかな?)
- Sonnox Oxford EQ:元メインで、今もメインの一つですね。切れ味がかなり鋭いので、要らないところを削るには最適。ここ数年はFabfilter/Pro-Q3にほとんど切り替わってたのですが、なんかFabfilterじゃないなって思うときに選ぶ機会が増えてきてます。この使い分けは完全に感覚で、生楽器が多いほどSONNOXな気がします。今の人には古い類なのかもしれないのですが、SONNOX製品は全部すごいプロの道具だと思います。
- Waves SSL Channel:カットもブーストもいやらしさの無いザックリ派。生楽器系によく使います。このモデルの広めなQで大雑把な音の根本を作ることも多いです。ただレベルオーバーのアラートは常に気をつけてください。このプラグインのコツはブーストした後にちゃんとアウトプットレベルを下げることです。
- Waves Qシリーズ:先述のハイパスの様な単独な目的のためのみに使ったりします。結構なんとなくなのですが、個人的にしっくり来るというか狙いやすいんですよね。
- Waves Renaissanceシリーズ:SSLやFabfilterで個々の音を整えてたら、他のトラックと大雑把にバランスを取る際にも使います。音の変化が大雑把かつ正確という相反する効果が好きでキャリアの初期からRenシリーズは手放せないです。
以外と普通というか、むしろ地味です。その他、古くはRedline、Sonalksiss、Equlity、Slate、UAD、A.O.Mなどなど、国内外問わず有名所はほとんど手を出しましたが、結局は不思議とここに戻ります。多分見た目ほど音に切れ味がなかったり、運用が面倒だったんだと思います。SonibleのSmart EQや流行りのEventideのSplitEQ等のAIセンスを試すこともあります。持ってる人はただ掛けるのもいいですが、どんなことを勝手にしてくれてどうなったからその音になったかを把握するとかなり経験値が溜まると思います。
かっこいいGUIや言葉に惑わされないのも大事。
結構驚かれるのですが、UAD-2は完全に解脱してます。それぞれの音もいいです大好きなのですが、ちょっと昨今の仕事上であそこまで倍音だ歪みだなんだがあるとちょっと邪魔くさいんですよね。必要な時は録る時かなりしっかりとレコーディングしてるので、重複するというか味付けが薄い正確なカッターみたいなものが好みになってます。
一番の問題はUAD-2が入ってるスタジオに持ってくときに、自分の方がプラグイン持ってるとかなり面倒なのでほぼそこですね。後、永遠に付きまとう荷物減らしたい問題。
同じようなビンテージ系の質感がほしければ、IKのT-Racks系の方がもっと使いやすく好みです。値段が安いのでみんながちょっとだけ下にみてる感じもありますが、処理のレベルは同等レベルだと思ってるので、逆にかなりのお買い得なんじゃないかな。若干ビンテージモデリングってのも飽きたのと、言ってるほどよくないものが多いってのもあります。
「録りのときにいろいろかけてるからすでにそういう味ついてる」
ここが意外と重要なポイントで、昨今のソフトシンセ類も音源として作られてるときにしっかりいろいろ掛かってるので、何かとクリーン系のほうがやりやすいんですよね。
音が細いと感じるデータがきたらハードで外科的に直すか、機材や音源を見直してちゃんと録り直してもらった方がいいです。
歪みとか倍音って音が良くなる魔法のような感じするけど、滲ませるというかどんどん鮮度を落とすものなので、どうせかけるならパラレル(掛けたいトラックを複製してそっち掛けて混ぜる)のほうが立体感出しやすいです。詳しくはこちらからコラムVol.4:立体感が生まれるプリとポストの使い分けとパラレルのテクニック
「ソフトシンセがキレイすぎるから軽く歪ませて鈍らす」
これもよく聞きますが、下手にプラグインでどうこうするより一度アナログにでも出して戻したほうが早いです。別に高級マイクプリとかじゃなくても(あればあれですけど)Mackieのミキサーでもなんでもいいです。
なんならインターフェイスの余ってるアウトから余ってるインにアナログケーブルで戻すのだけでも効果が出ます。勝手にケーブルサミングって言ってますが、いったんアナログに出すことで、いい意味で音が悪くなるので音が分離するんですよね。是非お試しあれ。
EQの基本はグリグリ!実作業の一例をご紹介
だいぶ前置きが長かったですが実作業に入ってみます。こんなの分かってるって人ももう一度あえて試してみてください。何か新しい発見があるかもしれません(笑)
まず各楽器をソロにし急激なカーブでハイパスを入れて行きます。音が変わらないギリギリまで切って行って、ここだと思った所から軽く戻しつつEQカーブ(Q)を結構緩めます。ここはその場その場の感覚なので厳密な数値は無いです。ここを神経質にやるとカリカリになります。
その後、他の楽器を一緒に聴き、バランスを取ります。ちなみにここで先にキックとボーカルの音量(ほぼ同レベル)をしっかりと決めてしまうと、後々困りません。
ここでいう「決める」ということはそれを基準にして動かさず、他の音を整理してバランスを作っていくことです。
EQの作業は他のトラックかの兼ね合いを決める作業でもあるので、なるべく他のトラックを鳴らしたり鳴らさなかったりして、何度も確認してみてください。
個別のトラックをソロだけで処理を進めてしまうと必要以上のEQ処理をしてしまいやすく、全体で鳴らした時に埋もれてしまったり、必要な被りの処理がされておらず、別の処理が必要になってしまうなどデメリットの方が多いです。
まずVolとPANの調整、それでも納得行かないならカブリを削りにいきます。目立たせたいトラックじゃない方のトラックにEQを挿し「グリグリ」します。
グリグリ(勝手に言ってる言葉ですがよく出てきます)とは、Qを細めにし、ゲインをフルブーストし、周波数を上下にグリグリ動かします。
これをすると音が濁る(ムォとかクォって感じの音がします)場所や、メインの音にかぶるって聞こえづらくする帯域が見つかります。
これこそが「そのトラック中のこの曲の中で邪魔な帯域」です。これを中心に処理していく意識を忘れないでください。それ以外の処理はオーバーEQとも言えます。
音が濁った周波数に設定したまま、ゲインをカット方向に数字を動かし、Qを少し広げて少しカットを減らすのがポイントです。ハッキリくっきりし過ぎると音楽的では無くなってしまうのでこの少し弱めるというアバウトさをは重要だったりします。
このグリグリ方式で大体のEQポイントは探せると思います。
キックもベースも大事な昨今のダンス系なら、EQで処理をする前にサイドチェーンを使うのもありです。いわゆる時間軸で避ける方法ですね~。これだとそれぞれのトラックが持っている個性を変にいじることがなくカブリの処理が出来ます。キックのタイミングでベースを凹まして、同じバスに送ってコンプでまとめる事を多々ありますがここではサラッと。
詳しくは「即戦力のEQテクニック⑥:最先端のEQは時間軸で作る周波数の住み分け」にまとめてありますので、チェックしてみてください。
次の内容で詳しく書きますがこのときの切り過ぎには注意です。探そうと思えばいくらでもカットポイントを見つけられるのですが、これを潔癖症の様にやるとどうしようもない結果になります。
こちらも詳しくは「即戦力のEQテクニック④:倍音を理解して意識する」にまとめてありますので、チェックしてみてください。
先ほどのハイパスも全てのトラックで必ずしも必要な訳では無く、あくまでも曲に対する理解度で調節下さいませ。それが個性につながります。
EQは元音にない音は触れないし、全部の音でスタート(ブーストとかカットの0の位置)が違う。ソースの数だけ適切な設定があるわけで、前回も書きましたが「人の数字は参考にはなるけど最適にはならない」ってことです。
その世代の感覚はその世代の常識!
昨今のクライアントもクリーン目なニーズがすごい増えてきると感じてます。僕らの世代に流行った音楽はむしろ情報過多に聞こえるらしく、これがジェネレーションギャップってやつだなとも思うことが増えてきました。歪む、滲むといったことに敏感にマイナスの反応感じる世代も出てきてます。その世代の感覚はその世代の常識なので、可能な限り対話しながら一緒に実験する様にしてます。
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